米澤会員ブログ「新春お茶ばなし~東山・ひがし茶屋街から~」

米澤典子

初春のお慶びを申し上げます

穏やかに新年を迎えることができたことを有難く思い、安堵の気持ちでこの年始を過ごしています。我が家は、金沢東山・浅野川大橋の袂で、茶と茶の湯道具の販売を営んでいますが、お正月は、今年最初の水で淹れた煎茶・大福茶(おおふくちゃ)を飲むことから始まりました。

「大福茶」は、京都に古くから伝わる習わしで、一年の無病息災を祈っていただく縁起のよいお茶で、干し梅と結び昆布を入れた茶碗に煎茶を注ぎます。歴史を辿ると、平安時代中期・村上天皇の時代、京の都では疫病が流行しており、そこで六波羅密寺の空也上人が、町民にお茶を振舞ったところ、疫病がみるみるうちに治まったといわれていることが、今日まで続く謂れのようです。


茶の研究が進みつつある現在では、身体への効果や効能が一般的に知れ渡ってきていますが、茶が<薬>として扱われていた昔より、先人の恩恵を受けていたのだなぁ~と、年始の一服に悠久の歴史を感じるひとときを過ごしつつ、お足を運んでくださる観光のお客様にも、簡単に分かりやすく、お茶の説明ができたらいいなぁと思っています。

観光のお客様といえば、店の外、東山界隈・ひがし茶屋街へと続く道には、外国人、日本人問わず、連日とても大勢の方々で賑わいを見せています。近年では、円安やインバウンド増加の影響もあり、当店にもヨーロッパやアジア諸国からの来訪客がとても増えています。


今海外では抹茶が大ブーム。栄養価が高く、風味を自在にアレンジできることが人気の理由のようです。「”マッチャ”ありますか?」から始まる会話には、スマホの翻訳ソフトが大活躍しています!(笑) 缶に詰めた抹茶をお見せしますと、満面のスマイルで応えてくださるのも嬉しくなる、海外のお客様とのやり取りです。日本のお客様は、昨今のレトロブームに乗ってか、古く懐かしいものを求めるZ世代の方が増えているように感じています。そして国内外に共通して覗えることは、それぞれに「眺めを楽しんでいる」ということでしょうか・・・。橋から見上げる卯辰山、橋から見下ろす浅野川、古民家が並ぶ通りを散策しながらの見晴らしに、憩いと安らぎを感じられているのかもしれません。

浅野川大橋から見上げる卯辰山

北陸新幹線が金沢に開業して今年で10年経ちますが、子供の頃から慣れ親しんで暮らしてきた静かな風景がだんだん様変わりしてきたことに、正直なところ、寂しさを感じていた私でした。けれども、満足げな表情で抹茶を受け取り、「素敵な場所ですね、癒されます。」とお声を残してお帰りになるお客様との触れ合いから、「あーいいところに私はいるんだなぁ~」と、この街の良さを同時に教えてもらっているようにも思います。<雪おこし>と呼ばれる、雪が降る前兆で起こる雷雪がありますが、北陸の冬到来を初めて体感して驚く姿に、ほろ柔らかい気持ちにもなった年の瀬でもありました。

寂しさと新たな感情を覚える街並みを、旅人気分で歩いてみたら、二人の友人の言葉を思い出しました。一人は店舗のホームページ作成に携わってくれた、生まれも育ちも東京のウエブデザイナーです。「ここには落書きが一つも無いんですねぇ。これ、すごいことですよ。来る人みんなが、場所や空間を大事にしたいと思わせる・・・ここってそんな所なんでしょうね。」

もう一人は、金沢を離れて金属造形作家として頑張っている小学校時代の同級生です。「遠くから、俯瞰的に金沢を見てみるとね、純粋な気持ちになるっていうか、固定観念がとれてね、あ~自分はいいところに暮らしていたんだなって気づかされるよ。」

今年の宮中歌会始の勅題は<夢>。
歌に詠むのは難しいけれど、現実に叶う夢路の一つに<わが町>を選んでくれたことに感謝の気持ちを込めつつ、また次の夢路へと笑顔で送り出していけるように過ごしてゆきたい。
希望芽吹く心豊かな年であることを願いながら。

米澤典子

※米沢茶店 https://yonezawa-chaten.jp/

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