野口喜美代
表千家教授 (野口宗美)
結び柳に託す新年の願い――初釜のしつらえ豆知識
茶道では、年の始めに「初釜(はつがま)」と呼ばれる行事を行います。初釜は、その年最初のお茶会であり、稽古始めでもあります。亭主は一年の無事を願い、ふだんよりも華やかで縁起のよい道具を用いて、お客さまをもてなします。

初釜の床の間で目を引くのが、「結び柳(むすびやなぎ)」です。天井近くから床まで、柳の枝を輪にして飾るこのしつらえは、正月ならではのもの。柳は折れても芽吹くほど生命力が強いことから、新しい年の始まりや、健やかな日々への願いを表しています。また、「結ぶ」形には、人とのご縁や、今年も変わらず顔を合わせられることへの思いが込められています。初釜の結び柳は、「また元気にお会いできますように」という、茶の湯ならではの控えめな祈りなのです。
初釜では、お菓子や道具にも縁起が託されています。長寿と健康を願う花びら餅や、松の緑にちなんだ常磐饅頭など、新春らしい意匠が楽しめます。また、「若水(わかみず)」――元日の早朝に汲んだ清らかな水――という言葉があるように、新しい年を清らかな気持ちで迎えたいという思いが、しつらえの随所に表れています。
寒さの厳しい季節ですが、初釜には、こうしたささやかな心遣いを通して、新年の喜びと、春を待つ心が静かに込められているのです。
寒さの中にひそむ春の便り――花の異名豆知識
花の異名には、自然を見つめ続けてきた先人の感性が詰まっています。名前の由来を知ると、いつもの散歩道に咲く花も、少し違って見えてくるものです。寒い季節だからこそ、梅や水仙に目を留めて、春の気配を探してみてはいかがでしょうか。
一年で最も寒さが厳しいといわれる大寒の頃。吐く息は白く、景色も冬色に包まれていますが、自然の中ではすでに春への準備が静かに進んでいます。その先駆けとなるのが梅の花です。梅は多くの花に先がけて咲くことから「百花魁(ひゃっかさきがけ)」と呼ばれ、また春の訪れを告げる花として「春告草(はるつげぐさ)」という美しい名前もあります。凛とした枝ぶりに可憐な花を咲かせ、ほのかに漂う香りは、冷たい空気の中でいっそう際立ち、春が近づいていることをそっと教えてくれます。
同じ時季に見頃を迎える水仙も、冬を象徴する花のひとつです。雪の中でも花を咲かせることから「雪中花(せっちゅうか)」という異名を持ち、その名のとおり清らかな白い花を静かに咲かせます。派手さはありませんが、すっと背筋を伸ばしたような姿には、寒さに耐える強さと気品が感じられます。
花に与えられた異名には、自然を見つめ続けてきた先人の眼差しと、季節への敬意が込められています。名前の由来を知ることで、何気なく眺めていた花が、物語を持つ存在として身近に感じられるのも不思議なものです。寒い中の散歩で梅や水仙を見かけたら、少し足を止めて、その名に込められた意味に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。季節の移ろいを、より深く味わえるひとときとなることでしょう。
令和8年 睦月
