NPO法人ありみねの活動紹介「風の人の恩返し」

特定非営利活動法人 ありみね
尾崎あおい

はじめまして。
特定非営利活動法人ありみね、運営管理責任者の尾崎あおいと申します。
数十年前、縁もゆかりも無い富山の山奥に、南国土佐(高知県)出身の両親が移住しました。民宿経営などを経て、現在は小さなデイサービスを運営し、18年になります。

昨年からは新たに、「共生・共助コミュニティ創り」の準備に着手し、今年から本格始動です。実は、この原稿を提出した後にイベントを開いたばかりです。最後にご紹介したいと思います。

父が転勤族だったことや自身の学校・仕事の関係もあり、20代までは東京・埼玉・愛媛・香川・広島・富山・東京・・と、国内さまざまな所に移り住みました。20代後半に勢いと好奇心だけで日本を飛び出してからは、英国12年、マレーシア1年半の居住のほか、ペルーやスペインでの1カ月程の短期滞在や観光などでさまざまな国を訪れました。日本はもちろん、どの国にも魅力があり、素晴らしい経験や出逢いに恵まれました。そんな私は、数年前まで「多拠点生活」が夢でした。

しかし、2020年コロナ禍。海外どころか国内の移動もままならなくなりました。世界中で起きている、これまで見たことも無い事象を目の当たりにし、人生や人間関係、政治や世の中の仕組み、今後の生き方や価値観を、改めて熟考する機会となりました。

「じっくり腰を据えて住んでみた富山」は、フーテンの風の人の私にとって、改めて「宝の山」のような地であることを再認識しました。美しい自然に恵まれ、海も山も近く、水も空気もきれい。食材は豊富で、芸術・文化施設も多い。教育・生活水準が高く、比較的天災も少ない。穏やかに、心豊かに生きていける安心感が富山にはあります。
よく「保守的」といわれる県民性ですが、私にとっては、一旦仲良くなると義理堅く、優しい人々。職人気質・アーティスト気質の方々、思想や信念を持ち活動されている老若男女、大都会のようなギラギラ・派手さは無いかもしれないけれど、「静かに黙々と光っている」人々が多いような、そんな印象を受けます。一方で、外から舞い込んできた「風の人達」には宝の山のように見えるこの地に、幸運にもずっとおられる「土の人達」がその素晴らしさに気付いていらっしゃらないと歯がゆく感じることも。

時代も価値観も大きく変わりました。今は高度経済成長期でもバブルでもない。日本も諸外国と同じように、政治・経済・教育・医療・福祉などさまざまな問題が山積しています。しかし世界的に見てもまだまだ豊かで、安全で、インフラや生活サービスレベルに対しての生活コストが低く暮らしやすい日本、その中で更に「静かに力強く、豊かな」この富山で、慌ただしさやギラギラ上昇志向に巻き込まれること無く、さまざまな業種・人々が繋がり、皆が心豊かに何らかの役割を持ち、共生・共助の精神で生きていくことができたら。

ご縁あって繋がらせていただいた、この「キャリアネットワーク北陸」様もまさにそのようなプラットフォームだと思います。そして私もこれから少しずつ根を張り、皆様に学び、ご協力いただきながら「共生・共助コミュニティ創り」に邁進して参ります。

私は20代半ばで心身共にボロボロになり、当時住んでいた広島から、既に富山に移住していた両親の元へ「避難」しました。1日2時間ほどしか起き上がれない状態になり、対人恐怖症に苦しみ、完全に引きこもった時期もありました。自然豊かな家の周辺を、母に連れられて15分から30分散歩するのがやっとの日々でした。自他共に「人生終わった」と思いました。

しかしいつしか、富山の山奥で静かに暮らし、何もできなくても両親のお蔭で何とか生かされ、心と体をじっくりと休める時間を得られたことで、知らず知らずのうちに心理学でいうところの「内観法・内観療法」と似たようなことを、自ら実践していたのかもしれません。少しずつ、ゆっくりと心と体の状態が回復し、スモールステップで行動範囲を広げ、恐る恐る社会に出て行きました。

そして気付けば5年後。10代でぼんやり憧れていながら、社会的な常識や思い込みから「きっと無理だ」と、どこかで諦めていた夢を叶え、英国ヒースロー空港の搭乗口で、何百人ものお客様を前にアナウンスをしていました。その道程で、まだ社会に戻ったばかりの、脆く危うい頃の自分の安全な居場所と、親切にしてくださった方々は、富山と、この地の人々でした。

高齢者や、障害のある方々、ひきこもりや不登校といわれる子達、貧困や何らかの理由で生き辛いと感じている人達、限界集落で「消滅していくだけだ」と、生まれ育った故郷を諦めてしまっている地域の方々。社会的弱者といわれ、自身もそう思い込んでしまっている人達。さまざまな活動を通してそういう人達の居場所となり、安心して休める所、違う視点を発見できる所、繋がれる所、助け合える所、役割を見つけるきっかけとなる所、学べる所、雇用を生む所を創りたい。目の前のキレイ事ではないさまざまな問題にひとつひとつ向き合いながら、そういう場を創ることが、私の、地域への恩返しだと思っています。
まず初年度の今年は、地域の方々にもご協力いただきながら、とやま生活共同組合様・富山国際大学様・無農薬のお米栽培「結の会」様との協働事業をスタートとして、少しずつ活動内容を広げて参ります。この原稿を提出したあとの6月2日、念願のコミュニティ「結真館(ゆうしんかん)」にて、初のイベントを開催しました。

「皆様の活動のお役に立てるのなら」という地域の方のご厚意で、12部屋もある大きな古民家をご提供いただいたことにより、「結真館」創設は実現しました。長年大切に住まわれていた持ち主の方と、職人さんや大工さんの想いが詰まったその家は、明るく風通しが良く、大きな窓からの美しい山と川を望む景色に、参加されていた方々から感嘆の声が上がっていました
生憎の悪天候で、午前中の無農薬米栽培農家「結の会」さんによる「田植え体験」は中止となりましたが、地域の方々・大学の先生・子ども達・NPO団体のお仲間・「結の会」メンバーの皆さん・長年福祉業務に関わっている方々などが「結真館」に集い、いろいろな分野の話に花を咲かせ交流を楽しみました。とやま生活共同組合様からご支援頂いた食材と「結の会」さんのお米でカレーランチの後には、差し入れの有機コーヒーと、デイサービススタッフ手作りのチョコレートケーキ。地域の方が朝早くから採りに行ってくださった大量の新鮮な山菜や、お譲りいただいた沢山の日常生活用品もお裾分け・お土産になりました。

準備不足な上に初めてのイベントで右往左往するばかりの私でしたが、参加されている皆さんが率先してお手伝いしてくださり、盛り上げてくださいました。「繫がり」「助け合い」「学び」「優しさ」を感じる素晴らしい時間となり、皆様には心から感謝しております。

次回のイベントは8月です。夏休みに因んだ活動を数日間にわたり開催する予定で、市外・県外からの子供や若者も参加予定です。また今後は日常的に、相談業務やデイサービスの皆さんの利用、勉強会や合宿、教室などでもご利用いただく予定です。「結真館」を皆で創り上げながら、沢山の人々が出会い、繫がり助け合い、楽しく学び多い時間・優しさや安らぎを感じられる時間・自然を満喫し癒される時間を過ごせるよう願い、日々活動して参ります。

    尾崎あおい

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